企業価値を見積もる方法は、大きく分けて以下の3つに大別されます。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
この記事ではマーケットアプローチによる企業価値の見積もり方法を解説します。
☑マルチプル法とは
☑EBITDA倍率とは
☑企業価値の見積もり方
マーケットアプローチとは
マーケットアプローチとは、株式市場で値付けされる平均的な株価を元に、個別の企業価値を求める方法です。
その中の代表的な計算手法に、マルチプル法と呼ばれる方法があります。
同じ業界内の企業らが稼いでいる「利益」に関する指標と、株式市場で投資家が実際に値付けする「株価」の倍率を求めて、その倍率を個別企業の「利益」指標に掛け合わせる事で、相対的に企業価値を見積もります。
マーケットアプローチはM&Aする際の企業価値見積もりでも、よく用いられる企業価値の見積もり方法となっています。
マーケットアプローチで企業価値を見積もる方法
マーケットアプローチで企業価値を見積もる代表的な方法がマルチプル法。
具体的には、同じ業界内の企業の「EV/EBITDA倍率」の平均値を、個別企業のEBITDAに掛けて求めた企業価値とコストアプローチで求めた企業価値を足して計算を行なうのが一般的です。
EBITDAとは
まず、EBITDAとは「earnings before interest, tax, depreciation, and amortization」の略です。
日本語では「利息、税金、減価償却費、および償却費を控除する前の収益」と訳します。
つまり、企業の税引き前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を足し戻した収益額の事を指します。
簡便に計算するのであれば支払利息を無視して、営業利益に減価償却費を足し戻した金額でも、ほぼ同じと言えるでしょう。
EV(Enterprise Value)とは
次に、EV(Enterprise Value)とは、企業の株式時価総額(株価×発行株式数)に有利子負債を足し、現預金を引いたものです。
ちなみに、EV(Enterprise Value)とは本質的な企業価値を表しているのではなく、株式マーケット側から見た時に実際に値付けされている価値のことを表します。
なので、株価の変化によってEV(Enterprise Value)は常に変化します。
EV/EBITDA倍率で相対比較
そして、「EV/EBITDA倍率」はEV(Enterprise Value)がEBITDAの何倍になるかを倍率で表したものです。
式は「EV/EBITDA倍率=EV(株式時価総額+有利子負債-現預金)/EBITDA」
この式で、企業価値を見積もりたい企業における、業界平均のEV/EBITDA倍率を求めます。
マルチプル法でEV/EBITDA倍率を用いて相対的に評価する理由は、グローバルな視点で長期的な企業価値を評価する為に、国ごとの法人税率の差異や短期的な設備投資の影響を取り除いた方が公平な評価ができるからです。
他にも、PERやPBRを元に相対的に企業価値を見積もる方法もあります。
本当は法人税や特別損益、支払利息に減価償却費なども含めた当期純利益で企業価値を評価すべきですが、マルチプル法ではEBITDAと企業価値の業界内の平均的な倍率を求めるだけなので、ノイズとなる税金や設備投資などの要素は省いたEV/EBITDA倍率のほうが、より公正に評価できる指標となるでしょう。
マルチプル法で企業価値を見積もる計算式
マーケットアプローチ(マルチプル法)で個別企業の企業価値を見積もるには、以下の式で計算します。
「マーケットアプローチで見積もる企業価値=EBITDA×(業界平均EV/EBITDA倍率)+コストアプローチで求めた企業価値」
この式で、将来の利益に対する価値を、株価の平均的な値付け水準から相対的に計算し、時価の純資産額を足したものがマルチプル法で求める企業価値となります。
まとめ
マーケットアプローチで求めた企業価値は、客観的に企業価値を見積もる事が可能な反面、あくまでも業界平均から相対的に求めるものなので絶対的な根拠がある訳ではありません。
業界平均のEV/EBITDA倍率を計算する為の企業チョイスも難しいので、なかなか計算するのも大変でしょう。
インカムアプローチ、コストアプローチを重視しながら、余裕があればマーケットアプローチでも企業価値を見積もって、実際の株価との乖離を確認しながら投資判断を行いましょう。
コストアプローチとインカムアプローチで企業価値を求める方法については以下の記事で解説。